【後編】With コロナ時代にこそ高まるデータマネジメントの重要性

こちらは2022年1月に発刊された統計と情報の専門誌「エストレーラ」に、弊社代表の大西が寄稿したものを転載しています。

前編はこちらからご覧ください。

 

5.データマネジメントに取り組む上でのポイント

日本におけるデータマネジメントの普及・啓発・定着化を目指し、筆者が発起人として2011 年に創設した一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)は、約250 社を超える企業・団体が会員として参画するまでに成長している。

そのJDMC が出版している「データマネジメント概説書」で、データマネジメントとは『データをビジネスに活かすことができる状態で継続的に維持、さらに進化させていくための組織的な営み』と定義している。

つまり、ツールを導入すれば完成するようなものではなく、「これをやればよい」という都合の良い方法論でもない。それらはあくまで「手段」に過ぎない。

データを活用する目的が発生するまでは表面化しにくい、根絶が困難なコンフリクト・データと向き合い、自らのビジネスや組織の付加価値を向上させるためにデータを活用していこうとする取り組みの総体が「データマネジメント」であると認識すべきである。

 

 そうした認識に立脚した上で、企業はどうデータマネジメントに取り組むべきか。大きくは以下の3点が成功のキーポイントとなる。

 

 

図2.jpg図2:データマネジメントの成功ファクター

 

① データを活用する目的を明確化すること

 まず「どのようにデータを活用して、誰に対してどのようなメリットをもたらしたいのか」という目的を明確化することが重要である。

ともすると、「活用の目的が定まっていなくても、とりあえず“宝の山”であるはずの社内のデータを収集してデータウェアハウス等の基盤に溜めておこう」といった安易な取り組みから着手する企業が多いが、これは最も失敗しやすいアプローチである。

源泉となる業務システムから収集され、無秩序に蓄積されたコンフリクト・データを誰が活用したいと思うだろうか。

 

 たとえば、前述の小売業のケースであれば、「リアルとオンラインの顧客接点をつないで優良顧客の行動分析を行い、既存顧客からのリピート注文を増やすための施策を検討したい」といった活用のニーズを明確化し、その活用のために対象となるデータ群が現状どのシステムにどのような状態で保持されているかをアセスメントすること(=客観的に状態を把握し、問題や改善点を明確化すること)が“はじめの一歩”となる。

活用対象データの実態を把握した上で、それをどう統合・整備すれば目的とする活用が実現できるのかを明らかにすること、ならびに、このデータの改善に係る難易度や所要期間、コスト等を適切に見積もって計画を立案すること、この地道なプロセスこそがデータマネジメントの取り組みの成否を分けるといって過言でない。

 

 ここで留意が必要なポイントとしては、既存のシステム仕様書や項目定義書等の設計ドキュメントベースだけではなく、活用ニーズに係る領域の現状の業務システムに蓄積されている「実際のデータ」をアセスメントして現状を把握することである。

たとえば、「項目名が同じだったので複数のシステムからデータを連携して1 つの項目に取り込んだが、実際には意味が異なるデータが入ってきて、有効な活用ができない」といった事態を招くことになるからである。

業務システムが設計された当時の項目定義通りに正しくデータ(値)が入っていることの方が稀であり、「桁数が足りないから」、「項目が不足したから」といった已むに已まれぬ理由から、現場ではコンフリクト・データを意図せず次々に生み出し続けているのである。

データの実態の把握をせぬまま、机上で改善計画をいくら緻密に作成しても実効性が伴わないものになることを留意してほしい。

 

② 必要十分な実行体制を整備すること

 データ活用の目的を明確化し、現状のデータの実態を把握した上で改善の計画を立案する際には、それを実行することができるデータマネジメント体制の整備が不可欠となる。また、データマネジメントの実行にあたっては社内の様々な組織のステークホルダーが関わることが必須となるため、体制の整備と合わせて、それぞれのミッション・役割分担を明確化し、組織間で合意形成することが重要である。

 

 このとき、よくある誤った認識として、「全社的なデータ活用基盤整備はシステム部門に任せておけばよい」といった“他人事”で、ビジネス部門の関与が薄いケースがある。

システム部門の「新しいIT ツールを導入したい」という意向からIT ツール導入だけが先行して、データ活用の主体たるビジネス部門の積極的な関与がない場合、そのデータマネジメントの取り組みはほぼ失敗するといってよい。

データを活用することにより何がしかでもビジネス上の成果やメリットに結びついていない限り、企業経営者はそこにコストをかける理由を持ち得ないのである。

 

 筆者が日本支部の理事を務めている、データマネジメントの国際的なNPO 団体であるDAMA(DataManagement Association)が出版している知識体系- DMBOK(Data Manegement Body OfKnowledge)では、「組織がデータに関する何らかの決定を下す際は、IT の魅力に惑わされず、それがデータにどのような影響を与えるのかを見極める必要がある。

IT を先に決めるのではなく、事業戦略に沿ってデータ要件を決め、そこからIT を決定する」と述べられている。経営資源であるデータの生成・流通・蓄積・管理・活用に至るまでには様々な組織が介在し、「自組織のデータを生成・管理する者(データオーナー)」、「各組織のデータを全社的な視点で活用可能な状態に管理する者(データスチュアード)」、「管理されたデータをビジネスに活用する者(データ活用者)」、「各業務システムからデータを収集・蓄積・活用するための情報基盤を導入・管理する者(全社情報活用基盤等のシステム管理者)」といったステークホルダーが関与している。

このため、各ステークホルダーが相互に協力し合ってそれぞれのミッション・役割を担わなければ、最終的な活用の“果実(=ビジネス上の成果)”を得ることはできない。

実行体制の整備とそのミッション・役割定義を組織的に行うことがデータマネジメントを成功させるもう1 つのポイントである。

 

③ データマネジメントのルールを定めること

 データ活用目的の明確化と実態に即した改善計画が立案され、それを実行する体制や役割が整備できたとしたら、いよいよ計画の実行フェーズに歩を進めていく。

対象データの品質が活用の目的に適合していない場合には、そのデータを目的に適う状態に改善するためにデータクレンジング・統合等のデータ整備プロジェクトを遂行する。

 

 この際に留意すべき重要なポイントとしては、データマネジメントは“一過性のプロジェクト”ではなく、“継続的なプログラム”として捉え、持続的に求められるデータの品質を維持し、さらなる活用のために向上させていく「ルール」を制定することである。

「一度データを整備したら終わり」、「一度しくみを構築したら終わり」という姿勢では決してデータマネジメントは定着化しない。

 

 データ改善計画が着実に実行され、ひとたび活用できる状態になったデータ(この際にデータの値のビジネス的な意味を誰が見てもわかるように記述した“メタデータ”も同時に整備対象とした方が望ましい)であっても、それを継続的かつ適切に維持していくことが不可欠である。

そのため、データおよびメタデータの運用管理ならびにデータ項目の新規発生や変更等に伴うルールや実施手順(データ品質や活用のモニタリング方法、発生した課題の改善に向けた解決管理方法、データのアーカイブおよび廃棄の方法、アクセス権限管理方法、インシデント発生時の対応方法、データ活用の上で遵守すべき利用ガイドラインなども含む)を策定する。

 

 データ整備計画を実行すると、現実に発生しているデータの実情が把握できるため、この運用ルールに対してフィードバック・連携していくことが重要である。

また、各種運用ルールに逸脱したデータの取り扱い行為や品質の悪いデータが頻出し、その状態が改善されないまま一定期間が経過した場合などにおいては、しかるべき是正措置を講じる旨をルール上に明記する必要がある。

 

 

6.結び

ここまでWith コロナ時代になぜデータマネジメントがより強く求められるのか、データマネジメントの不全により企業がどのような課題に直面するか、また、なぜデータマネジメントが軽んじられ、放置されてきたのかについて考察し、それに取り組む上での成功のポイントを3 つ提示した。最後に本稿の結びとして、総括を述べたい。

 

 これまで個別組織の業務処理効率化を目的としてIT が導入され、部分最適化したデータが散在している現状に目を背けてはならない。コンフリクト・データと向き合い、既存の組織を超えてビジネスを駆動させるためには全社的なデータマネジメントに取り組むことが不可欠である。

 

 一方で、IT は否応なくさらに進化を続け、スマホやIoT の普及により、顧客やモノからのデータが爆発的に増えていく。

また、クラウドやネットワークの進化により、大量なデータを扱うアプリやインフラは代替えが効くようになっている。

しかし、いくら「器」であるIT が進化しようが、その「中身」であるデータがコンフリクトした状態であれば、活用できないことは自明の理である。

企業にとって代替えが効かないデータを経営資源として最大限に活用するために、日本のあらゆる企業が今すぐにでもデータマネジメントに着手することを切に願うばかりである。

 

 

※記載内容は取材当時のものです。株式会社リアライズは2023年1月1日に株式会社NTTデータ バリュー・エンジニアに社名変更しました。

 

 

 

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